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2008.1.25

Flageolet tones

倍音の原理を利用したヴァイオリン属およびハープなどの楽器の奏法による音。まず左手の指を弦にふれ、正確な振動の節でその長さを区分して、弓で軽く奏するといわゆるフラジョレット音が生じる。フラジョレット音とは、左手で指板を堅くおさえて発する普通の音と異なり、音色は笛のような神秘的な透明さをもち、その楽器としては珍しいほどの音の高さをもっている。

『標準 音楽辞典』より抜粋

単にフラジオレット、あるいはハーモニクスと呼ばれることもあるようです。まさに離れ業のような奏法。

この音を「透明感」と表現されるのを目にしますが、「透明」というよりも「繊細」の方が合う気がします。ガラスの上に薄く乗ったシャーベット状の氷みたいな感じの音。

ガラスの上の氷といえば。

ラヴェルの『ボレロ』の中に、サックスの旋律の上にピッコロの旋律を重ねたフレーズがあるのですが、このピッコロ、まさにガラスの上の氷みたいな印象があるんです。でも、フラジョレットみたいなシャーベット状の氷ではなく、もっと硬質な緊張感のある氷。

フラジョレット音に話を戻します。

本来含まれているはずの、しかも見過ごしてしまいそうな倍音を引き出すということでは、なんとなく催眠術で忘れていた過去を引き出すことにも似ている気がします。その人の人格には確実に影響を及ぼしているはずなのに、本人も忘れているような過去の記憶。

あるいは、目には見えていなかったのに写真に撮ってみると浮かび上がってくる図像とか。

倍音を引き出すという点では、モンゴルの倍音唱法、ホーミーも思い出されます。こちらは人間の肉声で引き出してしまうあたりが本当にスゴイと思うんです。

フラジョレットではないのですが、ヴァイオリンの高音ロングトーンの持つ、独特の危うさに惹かれます。文字通り、弦一本でかろうじて正気をつなぎ止めているような緊張感。

リムスキー・コルサコフの『シェエラザード』のラストとか。

オリヴィエ・メシアンの『世の終わりのための四重奏曲』のラストとか。

カタルシスを感じる美しさ。